核磁気共鳴用 送・受信機 (2)
結論から先に述べると、NMR(核磁気共鳴)の励起・検出器を目的としたものの、磁石部分の磁場(ネオジム磁石4枚重ね×2)が、十分 均一な磁場になっていないので、NMRの FID(Flee Induction Decay、自由誘導減衰)曲線は見ることができませんでした。 中古でもNMR用の電磁石を入手するか、作るまで、次回の実験に備えて、「励起電磁波
検出器」なるものとして、無線技術部分だけをまとめてみたいと思います。
1. 全体の構成図 (パルス法):
パルス法による NQR、NMR のための、送信部分、検出部分、受信部分のブロック図は次の通り。(17−35MHz対応。 詳細は変更する可能性あり)
2. パルス変調発振基板の作成:
発振部は、タイトVCによる発振回路は VCの体積が大きくノイズを拾うので、VRと 可変容量ダイオード(1SV101×2 、1SV149 ×2、各直列)でVCを構成し、27MHzコイル(または、28MHz・FCZコイル)を用いてコンパクトに作成。
発振周波数は、VRに+7.5V (電源ノイズや電圧変動を減らすため、+12V → +9V → +7.5V と2段で落とす)をかけて、バリキャップ・ダイオードを安定化させた。(モード1: 17 〜 30MHz、 モード2: 30〜45MHz程度) 発振コイルのコアを出し入れしてかなり調整できる。 coarse: 30kΩBVR、 fine: 2kΩBVR。 発振周波数は、5桁(○○.○○○MHz)まで安定した。
変調用パルスと オシロのシンクロ用トリガの発振は、両方ともPIC18F14K50で行なった。
・ パルスの幅は、AN8のVRで調節し、RB4から出る。Delay10TCYx(1) という最短時間を用いて、ループの動作時間が加わり、実測値で 2.5 〜 165μS となった。普通は数μS〜十数μSで使う。 (注: トリガと同じRC1などでは誤動作するので、RBで信号を出す)
・ パルスの周期は AN9のVRで 調節する。21mS〜2S(実測値)まで幅広くとった。(それぞれ10kΩの半固定抵抗で調整)
・ オシロのトリガ同期信号は、RC0から出て、1mS +α で 固定。 (PICプログラム参照 ↓)
パルス変調は、PINダイオード(1SV128)で行なった。 2SK439Eの出力側コイルは、コア: FT37−43、バイファイラ巻き 4T で作成したが、発振など問題はなかった。(ゲートの1kはパラスチック発振止め) PINダイオード回路出力で、3〜4Vp−p程度。 (このコアに、FT50−61 などの 大径・低μのものを用いると、部品が混んでいるので、磁束が飛んで、20MHz以下で寄生発振を起こした。)
この発振基板の消費電流: 12Vで 約120mA。
立ち上げてからの調整は、入力SWをOFFにして、連続出力に切り替え、測定部のVCのマッチング、同調の調整を短時間で行なう。 その際、ダミー部の電球の明るさ およびパワーアンプのコレクタ電流値とドレイン電流値を見ながらドライバーアンプの同調VCを調整して、共振最大出力にしてから、パルス変調、入力SWをONに切り替えて測定に入る。
PICプログラム(PIC18F14K50)、 lib_adc.h
2’. TTL IC変調方式発振基板(予備):
TTL IC方式のパルス変調は、PINダイオード変調よりも波形は歪むが、30MHz前後の高周波側で丸くなり、また1.よりも出力が大きいので、74F08のANDゲートでパルス変調する基板を、予備に作成した。(74HC08では出力が小さい) 高周波なので
信号は適度に丸くなって出力されるが、出力は35MHzあたりまで 約4.5Vp−pで、40MHzくらいが限界。次段のパワーアンプを出るころには、ほぼ正弦波となっている。 その他の回路は、PINダイオード変調とほぼ同じ。
基板の消費電流: 9Vで 90mA。
3. ドライバー・アンプの改善:
12.高周波増幅器(1)で作成した 10W増幅器は、出力に空芯コイルを用いたので、周波数特性がかなりクリチカルで、発振段で1MHz変えるごとに 同調VCを調整し直さなければならない。 そこで、周波数特性がもっとブロードになるように、トロイダルコアに変更した。 空芯コイルの各インダクタンスを測り、実際コアに巻いてLを計りながら、だいたい一致するように 巻き数を決めた。
トロイダルコアは、FT140−61(テフロンテープを巻いて絶縁) を用い、φ1mmスズめっき線で、
低周波用(24MHz近辺、NMR用)も、高周波用(30MHz近辺、NQR用)も: 同調コイル側: 2Turn・ガラ巻き、 タップ 1Turn、 出力側:
1.5Turn
とした。 同調コンデンサーはすべて国産の2kV耐圧の物。
結果はかなりブロードになり、(その代わり出力は若干下がったが、)@で、17MHz〜28MHzあたりまで、2回の同調VC調整のみでカバーすることができた。
多少出力は低くても、次のパワーアンプに入れるので問題ないと思われる。 マッチングVCはほぼ最大に入れ、ほとんど動かす必要がない。
(因みに、パワートランジスタの 2SC1945は、十数年前国内(サトー電気)で買ったもので本物です。 今は、中国の偽物が出回っているので注意)
4. 受信部の作成:
(1) RFアンプ:
アンプ入力部には、信号検出部からの強力な信号が行かないように、まず
λ/4延長線(3D2V、17MHz用に 2.7m、30MHz用に 1.5m)で振幅を弱め(「腹」→「節」)、次に、双方向に並べた高速スイッチングダイオード群(1N4148(100V、200mA、trr=4nS、Vf=0.7V(at.10mA)) ×9対、18個)を置いて、Vf 以上の電圧をアースに落とし、初段FET(2SK439E)を保護する。
FETは準方向電圧(Vf)の約0.7Vの信号から増幅することになる。
RFアンプの1段目は、FCZ21MHz用のコアを用い LC共振させた。(調整はブロードで、約24MHz中心に合わせておく。 30MHzの場合は再調整。) LC共振が無い回路よりも
格段に出力が増す。 2段目は、無調整・リニアでなるべく大きく増幅するため、UHFまで使える
GN1021(9Vで使用)を用いた。 感度は、4.(1)の コイルを使ったドップラー効果による動作チェックで、当初作成した 2SK439Eだけのものよりも格段に良く、GN1021(ガリヒ素、〜2GHz、50Ω)は入れた方が良い。
(2) DBM と フェーズシフタ:
DBM(Double Balanced Mixer)は前回と同じ構造で、今回はもっと効率よくエネルギーを伝えるために、インピーダンスを大幅に落として、低μ(高周波用)のコアに
数回巻いて作った。
FT50−61トロイダル・コアで、Al値=68、 L = Al・n2 (nH) より、 n=2Tで L=0.61(μH)、 ∴ Z = 2πf L
= 107Ω
このDBMで、RFアンプで増幅したFM変調した(=周波数が揺らいでいる)信号と、参照信号との 「積」が 出力される。 そのため、片側の信号がないと出力せず、また 周波数変化の無い信号同士もまた出力しない仕組みになっている。 300Ω・18Ω・300Ω
の抵抗は、50Ωマッチング減衰器(パワー1/2)。
Vin1 × Vin2 ∝ VOUT
検波ダイオードは手持ちの 1SS106 を用いたが、逆耐圧が10Vと低いので、1N60
(シリコン、40V)の方が良いかもしれない。
λ/4遅延線(ディレイライン)は、同軸ケーブル内の伝播速度は 約20万km/Sなので、30MHz用は、約1.5m、 17〜25MHz用は約2.7m。 半分の長さで折り返して逆向きに巻いて、インダクタンスを下げる。 実際の長さはこれらに配線の長さが加わる。
フェーズシフタは、25MHz以下の場合は 従来の遅延線方式のものを使っても良いが、28MHz以上の高周波側では ノイズを防ぐため、オペアンプ式のものをコンパクトに作り内部に収めた。 (外部フェーズシフタ: フェーズシフタで位相を変え、最大出力になるように、遅延線(同軸、1.5D2V)の長さを 12接点のロータリースイッチで設定する。 位相調節範囲は28MHzで 0〜π/2程度。 必ず1か所は最大値があり、うまくいけば両端の2か所が最大値になる。 (14MHzでは1か所のみ。))
オペアンプ式 フェーズシフタ: 低周波用に設計されるものをそのまま高周波用にしても、浮遊容量等の影響により理論通りにはいかず、位相はほとんど変わらなかった。(オペアンプは高周波用のものを使用: NJM2137D、 GB積 200MHz、バイポーラ、<6V) そこで、3本の Rを 4.7Ωまで極端に下げ、Cの方を ロータリーSW(6接点)で、Open、47p、120p、330p、0.001、0.1 のように大きく変えて、結局、Open: −60°、 0.1μF: −30° となって、位相変化凵≠R0度程度にしかならなかった。しかし、完全に π(=180°)にならなくても、位相が少しでもずれていればFM変調成分は十分測定にかかるので、高周波側ではそれほど問題ないと思われる。
20MHzなどの低周波域では、遅延線方式の外部フェーズシフタを用いる方がよく効く。
(3) AFアンプ(ビデオ帯域アンプ):
AFアンプは念入りに作らなければならない。 すでに 34.オペアンプフィルターで作っていたのでこれを参照した。
DBMによって検波されたFM変調成分のみを、フルスィング・オペアンプ(NJM2734D)を使って、オペアンプの1段目は約50倍(1MΩの半固定VRで半分あたり)で固定し、2段目で
パネルの1MΩVRで100倍分を調節し、トータルでmax 5000倍まで電圧増幅可能にする。 過剰な増幅気味で 上下の波形が4.5Vを超えて切れるので、実際は2段目のVRを50%以下で使う。
3段目、4段目は、それぞれ 100Hz、50Hz(西日本では60Hz、120Hz)の交流ノイズを除く
ノッチフィルタ(NF1、NF2))とする。 * この際注意すべき点は、スイッチング電源に起因する100Hzノイズが意外と増幅されて残ることで、丁寧に消さなければならない。共振用のCに セラコンを用いる場合に、中国・台湾製には大幅に規格からずれているものがあるので、±5%以下(できれば±2%以下)のフィルムコンデンサーを用いる。 20Hzも違うと フィルタにならない。 出来上がったものは、32.DDS周波数特性測定器で 10〜1000Hzの周波数特性を確認した。(↓)
その結果、NF1、NF2とも、低周波側に約1割ずれているので、RNF1: 33k → 30k、RNF2: 68k → 62k に変更した。
最後の段は、もう一つのフルスィング・オペアンプ(NJM2732D)を用いて、LPF(ローパスフィルタ)として、高周波ノイズをカットする。LPFには、固定の 0.1μFのコンデンサーと、可変の 20kΩA・2連VRで時定数を定める。 LPFを強く効かせると、テスト用のゆっくりした周波数変化(=ドップラー効果)のみを残すこともできる。 測定時には、LPFを利かせすぎると、信号も消えてしまうので注意。 ノイズを嫌うため、VR等への空中配線はすべて同軸・シールド線で行なった。
また、ハイパスフィルタはパネル面に念のために付けたが、通常はOFF。 ゆっくりした曲線を消すのに用いることがある。
5. 動作テスト:
(1) ドップラー・テスト: AF出力と トリガを それぞれ オシロのCH1と
TRIG端子につなげ、オシロは 外部トリガ掃引モードにしておく。 ドラバー、パワーアンプはOFF。
電源を入れて発振させ、ホルマル線を数回巻いたコイルをRF入力につなぎ、蓋を取って発振基板の近くでコイルを振って動かすと、その速度と基板までの距離に応じてドップラー効果が現れ、大きくゆっくりした曲線が現れる。 受信機能、特に RFアンプの増幅がうまくいっていることの確認。(・・・オシロのレンジ:
0.2V、50mSなど)
(2) PICパルスのテスト: 本機の出力端(裏のOUT端子) あるいは、パワーアンプのモニター波形と、トリガ信号(1mS幅・固定、オシロのシンクロ用)とのタイミングを見る。
出力信号の波形の長さは、ケース裏のPICパルス幅調整VRで行ない、パルス幅が変化することを確認する。(2.5 〜 165μS) 最終的には、数μS〜十数μSにする。 (・・・オシロのレンジ: 2V、1μSなど)
(3) 連続とパルス変調の調整: LC共振装置、ダミーロード、λ/4遅延線まで
すべて接続し、ドライバーアンプ/パワーアンプONする。 受信機に入力しない状態(入力SW: OFF)で、パワーアンプまで連続出力とし、同調・マッチング調整(ダミー付属の電球の明るさや パワーアンプの電流がMaxの所)をする。
それから、パルス変調切替SWによりパルス・モードに切り替え、その後、受信機に入力する。
((注意) 切り替えるのを忘れて入力に接続すると、RFアンプを壊す危険がある。 また、連続波の時、ダミーをつなげないと2箇所の双方向ダイオード群が著しく発熱し、パワー段のFETにも無理がかかる。)
パルスモードにして、LPFを左いっぱいから少し回して、高周波ノイズを消した状態にする。(100Hz、50Hzは問題なく消えている) 特に信号波(FM変調波)が含まれなくても、装置に起因する過渡現象が先端の 1mS程度の所に出るので、これを目印に、同調VCや フェーズシフタの調整で 振幅を最大にする。 増幅VRをあまり大きくすると、オペアンプの電源5Vなので、5V弱でスライスされる。
* 過渡現象の波形が出る原因は、発振器出力を直接 RF入力につなげると見られるので、初めから発振基板において発生し、高周波をパルス変調するときに(PINダイオード、TTL AND回路 の両方ともで、)FM変調されることによる。 観測波形は、この過渡現象波形を無視して
測定することになる。
(4) 外部波うなりテスト: 両パワーアンプをONにしたパルス出力の状態((3)の状態)で、ディップメータ―のコイルからの微弱な発振電波を、約50cm離したところから加え 周波数を近づけると、5桁目以上が一致する(○○.○○○ MHz)と 急に大きく、連続した うなり波形(kHzレベルの波)が現れる。 パワーアンプOFFでも うなり波形が出るが、むしろパワーアンプONにすると 強力に出力される。 また、RF inのクリップまで、50cm離しても 十分出力するので、 RFアンプの初期増幅と、特に ES1Dの逆流防止用のダイオードの堰(せき、Vf=約0.7V(at.10mA)以下だけ通す、trr = 15nS)としての機能は 十分果たされている事の確認となった。 (ダイオードを短絡すると振幅は小さくなる。
この互いに向かい合ったダイオード群は、結果的に、含まれている微小信号を増幅する。) このうなり波形が最大になるように、フェーズシフタや同調・マッチングVCなどの調整をする。
NMR、NQR波形は、この波形がそのまま減衰する形になるはずである。 周波数VRはかなりクリチカルに調整する必要がある。 (発振器は、2重に電源電圧を落としているので、5−6桁は安定する。
ディップメーターは不安定。)
(例) デジタル・ディップメーター: 19.0512MHz、 本機発振周波数:
19.0502MHz とおくと、 差 (うなり周波数) f = 約1kHz
6. NQRの測定:
均一な強磁場が不要の、物質内の電場勾配のみによる、NQR(核四極共鳴)のFID曲線は見ることができた。 コイルは印加用と検出用を分け、
印加コイル: φ1×φ15×6T、 検出コイル: φ0.8×φ10×3T とした。
(1) 試料:
装置は、30MHz高周波系(高周波モード(上記モード2)の発振器、周波数を上げたプリアンプ、30MHz70Wパワーアンプ、外部フェーズシフタ、1.5m遅延線)とし、試料は
感度を上げるため、試料物質と共に、共振コイルと垂直の検知コイル(φ10×2T)を入れた試験管を用意した。
試料物質は、 KClO3 (塩素酸カリウム粉末、f0 = 28.08MHz)と、 パラジクロロベンゼン(溶融、f0 = 34.2MHz) を用いた。 35Cl(存在比75.77%、中心共鳴周波数 28.08MHz(25℃)、核スピン 3/2)、37Cl(24.23%、約22MHz、核スピン 3/2)。 存在比の多い 35Cl の方を測定した。
(2) FID曲線:
KClO3は、0.2V、0.5mS レンジで、周波数 f0 = 28.10MHz近辺で、FID曲線が現れた。 数mSの間で、かなり急峻に減衰する。 中心周波数は、温度によって変動するようである。
7. NMR測定の試み:
磁場源として、ネオジム磁石(95×45×6mm)4枚重ねを 一対とした 計8枚を使った磁極を作成した。 その約1cmのギャップに 同調・検出用のコイル(φ1.2線、内φ6、15Turn)を挿入し、プロトン(1H+、水素イオン)の試料(Gd3+(約0.01M硝酸ガドリニウム水溶液)、φ6mmガラス管封入)を入れ、パルス電磁波を加えて
発生するNMR電磁波を増幅・検波し、オシロでその過渡現象(FID曲線)を観測するものする。 Gd3+は 緩和を起こさせる 磁性イオン。
結果は、一枚の磁石で大きく変動して、4枚重ねても十分 磁場が均一でないため、広い周波数域(23.5〜25.3MHz)で なだらかに変化する連続した共鳴ノイズが見られ(一応、LPFを軽くかける)、FID曲線としては観測されなかった。 他の周波数では(LPFを軽くかけ、)このようなノイズは出てこない。
54.磁場測定器の作成 1.の測定では 磁極間の磁場は 約0.59(Tesra)(=5900(Gauss))なので、プロトンの核磁気共鳴周波数は、
f0 = 42.6(MHz/Tesra) × 0.59(Tesra) ≒ 24.8(MHz)
となるはずだった。
ギャップ周りのアクリル板のプロトンも反応しているようなので(低周波側のノイズ)、アースした銅板をシールドとしてコイルの両脇に入れた。
(本格的なNMRでは、たとえば有機物のプロトンを測定する際、重水や重水素のみの溶剤に溶かして、共鳴周波数に関与しないようにして試料を作成する。)